天界の眼 切れ者キューゲルの冒険
次の本も届いたので、二巻目も読んだ。
なんだか、久しぶりの読書で勢いがついて昔のように一気に読んでしまった。
マグナス・リドルフとは対照的(は言い過ぎ?)な、なんとも自己中心的で、欲望に忠実だけど舌先三寸の言い訳や減らず口だけは達者な(でも大抵、言い訳は無駄に終わる)小悪党のキューゲルが、魔法使いにとっ捕まって、異星生物を体内に仕込まれ、「天界の眼」を探して持ち帰るという辛いクエストに放り出される……そんなファンタジー。
ファンタジーだけど、遠い未来で太陽の寿命がつきかけている滅びかけの地球が舞台で、科学は忘れ去られ魔法が支配している感じ。
何十年も前に書かれた小説なのだが、「天界の眼」というコンタクトレンズみたいなものを両目につけることで、掘っ立て小屋と醜い人々と粗末な食べ物が、天上界の豪華なお屋敷での貴族に見えたり感じたりして、食事もご馳走に感じられ、過酷な労働への余生の報酬としてこの眼を得る……という辺りが、最先端のバーチャルリアリティとか仮想現実に引きこもる感じを彷彿とさせて「やっぱりSFってすごいなあ」と思ってしまう。
しかし、キューゲルのあくどいこと。もう少し優しさとか思いやりとかないの? って思っちゃうぐらい、自分の都合や欲望に忠実なのが笑ってしまう。まあ、たしかに「天界の眼」のある遠い北方に運ばれて、放り出され、見つけたあとは自力で未開の地を歩いて帰ってこい……という状況は、同情してやりたいけれど、その道中で彼のペテンにかかった人々の被害だって、充分に悲惨だから、ちっとも同情できない。
しかも、彼の欲望や生きのびるためのペテンに騙される人々というのが、べつに悪人でもなんでもない普通の(或いは少し愚かな)人たちなのがまた、なんともいえない気分にされる。
特に後半の難所、銀の砂漠を越えるために騙された巡礼たちは、あまりに可哀想だ。いやまあ騙されたと気づいてないから、あれはあれで幸せだったのかも……いや、そうでもないよなあ。
そのくせ、あくどい計画がさっさとばれて、キューゲル自身もひどい目に遭ったりする。上手くいきかけても、毎回最後は命からがら逃げ出す羽目に。
特に最後のオチは、完全にギャグ漫画の世界だよ。「あ〜あ」って感じで。
この「滅びゆく地球」が舞台のファンタジーでの魔法は「憶えておいて使うと記憶から消えてしまうので毎回憶え直す」というもので、これがTRPGの元祖「D&D」の魔法の元ネタというのは、知識としては知っていたが、初めて現物に触れて「おお、これが!」と感動した。
また、キューゲルのキャラクター設定も、D&Dの性格設定(ローフルとグッド、ニュートラル、カオティックとエビル)なんかに影響を与えているのかなあ、なんて気分にもなった。キューゲルはまさに、「カオティック・エビル」なキャラクターなんだもの。ロールプレイのお手本のような人物だ。
RPGでこれやると嫌われるよなあ、みたいな。
楽しめたけれど、どっちの作品が好きかと言われたら「宇宙探偵マグナス・リドルフ」のほうを選ぶかな。
マグナスとは友人になれそうだし頼りにもなるが、キューゲルはそばにいたら要注意なだけだもの。